APAとコンサルティング心理学
コンサルティング心理学は、米国心理学会(APA)第13部会 Society of Consulting Psychology が「個人・グループ/チーム・組織」の3層を横断する実践領域として位置づけている分野です。定義・実践領域・教育訓練ガイドライン・学会誌を、確認できた事実にもとづいて整理しました。
本サイトはAPA(American Psychological Association/米国心理学会)およびその第13部会と、いかなる提携関係にもありません。承認・認定・後援のいずれも受けていません。このページは、APA第13部会が公開している枠組みを参照した、編集部による整理です。「APA公認」「APA準拠」といった趣旨で読まれることのないよう、あらかじめお断りします。
個人・グループ・組織の3層を横断する
コンサルティング心理学の特徴は、対象をひとつの層に限定しないことにあります。個人のアセスメントやコーチングだけでも、組織の制度設計だけでもなく、あいだにあるチームの相互作用までを同じ枠組みで扱います。第13部会は自らの姿勢を「個人、グループ、組織の成功と充足のために心理学的知見を適用する」と説明しています。
Individual
アセスメント/エグゼクティブ・コーチング/キャリア開発/強みとリスクの把握
Group / Team
チーム開発/心理的安全性/会議と対話/コンフリクト・マネジメント
Organization
組織診断/組織開発/組織文化/チェンジ・マネジメント
APAによる定義
“the function of applying and extending the specialized knowledge of a psychologist through the process of consultation to problems involving human behavior in various areas.”
APAによるコンサルティング心理学の定義
心理学者の専門知識を、コンサルテーションという過程を通じて、さまざまな領域の人間行動に関わる問題へ適用し、拡張していく働き。
この定義が線を引いているのは「何を研究する学問か」ではなく「どう関与する機能か」です。だから対象が個人から組織まで広がっても、ひとつの領域としてまとまります。
コンサルテーションの3つのモデル
「コンサルテーション」と言っても、誰の何を変えようとするのかは同じではありません。
| モデル | 焦点 | 何をするか |
|---|---|---|
| Client-centered クライエント中心 | 支援を受ける当人 | 個人のクライエントをアセスメントし、教師や医師などサービス提供者側に変更を助言する |
| Consultee-centered 依頼者中心 | 依頼者自身の力量 | 訓練やスーパービジョンで依頼者のスキルを育てる。依頼者は通常クライエントに直接会わない |
| Organizational / Systems-level 組織・システムレベル | 組織と環境の関係 | システム理論を用い、組織の生産性と環境との関係を改善する |
実務ではこの区別が効きます。「若手が育たない」という相談で、若手本人を測って配置を助言するのがクライエント中心、上司の関わり方を育てるのが依頼者中心、評価制度や職務設計を組み替えるのが組織・システムレベルです。組織診断の3レベルもあわせてご覧ください。
実践領域として挙げられているもの
- 個人アセスメント(individual assessment)
- 個人およびグループのプロセス・コンサルテーション
- 組織開発(organizational development)
- 教育・訓練(education / training)
- 従業員の選抜と評価(selection / appraisal)
- 研究と評価、テスト作成(research and evaluation, test construction)
- エグゼクティブ・管理職へのコーチング
- チェンジ・マネジメント(change management)
- 専門的な技術支援(expert technical support)
日本では別々の業界として語られがちな「適性検査」「研修」「組織開発」「コーチング」「変革支援」が、ひとつの領域に同居していることが分かります。
教育・訓練ガイドライン
第13部会の活動の柱のひとつが、教育と訓練のガイドライン策定です。会員の共通関心は「コンサルテーションのプロセス、実践活動、研究と評価、教育と訓練」だと説明されています。
| 版 | 書誌 |
|---|---|
| 2007年版 | Guidelines for education and training at the doctoral and postdoctoral levels in consulting psychology/organizational consulting psychology. American Psychologist, 62(9), 980–992. DOI: 10.1037/0003-066X.62.9.980 |
| 2017年改訂版 | Guidelines for Education and Training … : Executive summary of the 2017 revision. American Psychologist.(PubMed ID: 31305100。掲載巻号・ページ・著者名は、執筆時点の調査で確認できませんでした) |
2017年改訂版の巻号・ページ・著者名、第13部会の設立年、学会誌の創刊年は、執筆時点の調査で確認できませんでした。確認できていない数字や名前は書かないのが本サイトの方針です。改訂版の中身をここで要約していないのも同じ理由によります。
なお、産業・組織心理学の側(SIOP)にも別の教育訓練ガイドラインがあります。名前は似ていますが別の文書です。
学会誌 Consulting Psychology Journal
| 誌名 | Consulting Psychology Journal: Practice and Research(ISSN 1065-9293) |
|---|---|
| 発行 | American Psychological Association |
| 刊行 | 季刊。学会は “international in scope” と説明 |
| 編集長 | Theodore L. Hays |
| 収録 | PsycINFO/Scopus/PsycARTICLES |
掲載対象は、量的・質的研究、事例研究、概念論文に加え、wisdom papers(実践知を扱う論考)まで含みます。編集方針として明示されているのが次の一文です。
“papers that meet scientific standards, but are also readable, practical, and actionable”
学会誌の編集方針
科学的な水準を満たしつつ、読みやすく、実践的で、行動に移せる論文。厳密さと実用性のどちらも捨てないことを学会誌のレベルで要求している点が、この領域の性格をよく表しています。
書籍では、APAと第13部会の提携による Fundamentals of Consulting Psychology シリーズ(全6巻)が、コーチング心理学、フォレンジック・コンサルティング、エグゼクティブ・アセスメント、テクニカル・リーダーシップ、倫理、異文化コンピテンスを扱っています。
日本の読者が知っておくべきこと
- 日本に「コンサルティング心理学」の国家資格・専門認定は存在しない
- 米国の教育訓練ガイドラインは、日本の資格制度にそのまま対応しない
- 部会に個人が会員として所属することと、事業やプログラムが承認を受けることは別
- 「APA公認」と書かれていたら、何をもって公認なのか根拠を尋ねる
- 肩書きではなく、何を根拠にその打ち手を選んだのかの説明を見る
- 効果をどう測るのか、始める前に決められているかを確認する
この領域には日本の公的な資格制度がありません。だからこそ、看板ではなく説明の中身で判断する必要があります。判断の手順は組織で導入を検討する方へにまとめました。
ここで整理したのは領域の枠組みであり、効果検証ではありません。この分野をひとまとめにして効果を示したメタ分析は存在しません。効果を問うなら、コーチング、リーダーシップ開発、組織開発など構成要素ごとにエビデンスを見る必要があります。本サイトの研究・エビデンスでは、見直された定説もあわせて公開しています。
よくある質問
- 本サイトはAPAの公式サービスですか?
- いいえ。本サイトはAPA(米国心理学会)およびその第13部会と、いかなる提携関係にもありません。承認・認定・後援も受けていません。ここでの記述は、APA第13部会が公開している枠組みを参照した編集部による整理です。
- 日本に「コンサルティング心理学」の資格はありますか?
- 対応する国家資格・専門認定は存在しません。米国の教育訓練ガイドラインは、日本の資格制度にそのまま対応するものではありません。民間の認定資格はありますが、それらは米国の制度とは別のものです。
- 「APA公認」をうたうサービスは信頼できますか?
- 何をもって公認と言っているのか、根拠を必ず確認してください。個人が部会に会員として所属することと、事業やプログラムが承認を受けることは、まったく別です。APAは日本の事業者に対して「公認」という地位を与える制度を一般に運用していません。
- 産業・組織心理学とは何が違いますか?
- 重なりが大きく、両方に所属する実務家も多くいます。あえて分けるなら、産業・組織心理学は選抜・評価・職務設計などの研究基盤に軸足があり、コンサルティング心理学は「コンサルテーションという関与のしかた」で領域を定義しています。
このページの出典
- Society of Consulting Psychology(APA Division 13)公式サイト
- American Psychological Association (2007). Guidelines for education and training at the doctoral and postdoctoral levels in consulting psychology/organizational consulting psychology. American Psychologist, 62(9), 980–992.
- Guidelines for Education and Training … Executive summary of the 2017 revision. American Psychologist.(PubMed ID: 31305100)
- Lowman, R. L. (2016). An Introduction to Consulting Psychology: Working With Individuals, Groups, and Organizations. American Psychological Association.
- Consulting Psychology Journal: Practice and Research(APA発行・ISSN 1065-9293)
本ページは上記の公開情報をもとに編集部が作成しています。原文の確認は各出典をご参照ください。APAによる監修・承認は受けていません。