コンサルティング心理学大全Consulting Psychology Compendium
記事コンサルティング心理学とはエビデンス:理論・整理

APA第13部会が扱うコンサルティング心理学の領域

コンサルティング心理学は個人・グループ/チーム・組織の3層を横断する実践領域です。APA第13部会が示す定義、コンサルテーションの3モデル、実践領域、教育訓練ガイドライン、学会誌の編集方針を整理し、日本で読むときの注意点までまとめます。

公開 2026-08-29 / 更新 2026-08-29

結論

コンサルティング心理学とは、心理学者の専門知識をコンサルテーションという過程を通じて人間行動の問題に適用・拡張する働きだと説明されます。その中心にあるのが米国心理学会(APA)の第13部会、Society of Consulting Psychology(SCP) です。特徴は対象が個人だけでも組織だけでもなく、個人/グループ・チーム/組織という3つのレベルを横断する点にあります。ただし日本にはこの領域に対応する国家資格や専門認定は存在しません。米国の制度をそのまま当てはめて語ることはできない、という前提から出発してください。

このページの要点

  • APA第13部会は、コンサルテーションのプロセス、実践活動、研究と評価、教育と訓練に関心を共有する会員が集まる部会で、会員数は1,000名を超えると記載されています
  • APAの定義は「心理学者の専門知識を、コンサルテーションという過程を通じて、さまざまな領域の人間行動に関わる問題へ適用し拡張していく働き」です
  • コンサルテーションにはクライエント中心、依頼者中心、組織・システムレベルという3つのモデルがあり、誰の何を変えようとするかが異なります
  • 教育訓練ガイドラインは2007年に American Psychologist 誌で公表され、2017年改訂版の要約も公表されています。中核の枠組みは3レベル構造です
  • 日本には対応する国家資格・専門認定がないため、「APA公認」をうたうサービスがあれば、その表示の根拠をまず確認してください

結論

コンサルティング心理学は、個人/グループ・チーム/組織という3つのレベルを横断する実践領域です。個人のアセスメントやコーチングだけでも、組織の制度設計だけでもなく、あいだにあるチームの相互作用までを同じ枠組みで扱います。

中心にあるのが、米国心理学会(APA)の第13部会 Society of Consulting Psychology(SCP) です。部会は「コンサルテーションのプロセス、実践活動、研究と評価、教育と訓練に関心を共有する」会員の集まりだと説明しており、会員数は1,000名を超えると記載されています。

ただし最初に確認すべきことがあります。日本には、この領域に対応する国家資格も専門認定も存在しません。

「APA公認」という表示に注意

本サイトはAPAの公式サービスではなく、APAから承認も認定も受けていません。ここでの記述は、APA第13部会が公開している枠組みを参照した整理です。同様に、国内で「APA公認」「APA認定」をうたうサービスを見かけたら、何をもって公認なのか、その根拠を必ず確認してください。 個人が部会に会員として所属することと、事業やプログラムが承認を受けることは、まったく別です。

なぜそう言えるのか

APAはコンサルティング心理学を、次のように説明しています。

"the function of applying and extending the specialized knowledge of a psychologist through the process of consultation to problems involving human behavior in various areas."

日本語にすると、「心理学者の専門知識を、コンサルテーションという過程を通じて、さまざまな領域の人間行動に関わる問題へ適用し、拡張していく働き」となります。

この定義で目を引くのは、研究テーマではなく関わり方を定義している点です。「何を研究する学問か」ではなく「どう関与する機能か」で線引きするからこそ、対象が個人から組織まで広がってもひとつの領域としてまとまります。

部会自身も、「個人、グループ、組織の成功と充足のために心理学的知見を適用する」という姿勢を掲げ、会員の活動を「個人、グループ、チーム、または組織へのコンサルティング・サービスに心理学を応用することを促す」と説明しています。3層構造は、この領域の言葉づかいに一貫して現れます。

コンサルテーションの3つのモデル

「コンサルテーション」と言っても、誰の何を変えようとするのかは同じではありません。代表的な3モデルは次のように整理されています。

モデル焦点何をするか
Client-centered(クライエント中心)支援を受ける当人個人のクライエントをアセスメントし、教師や医師などサービス提供者側に変更を助言する
Consultee-centered(依頼者中心)依頼者自身の力量訓練やスーパービジョンで依頼者のスキルを育てる。依頼者は通常クライエントに直接会わない
Organizational/Systems-level(組織・システムレベル)組織と環境の関係システム理論を用い、組織の生産性と環境との関係を改善する

実務ではこの区別が効きます。「若手が育たない」という相談で、若手本人を測って配置を助言するのがクライエント中心、上司の関わり方を育てるのが依頼者中心、評価制度や職務設計を組み替えるのが組織・システムレベルです。

見積書を読む前に確認したい一点

外部に相談するとき、「誰を変える契約か」を先に言葉にしてください。当人か、当人に関わる人か、仕組みか。ここが曖昧なまま始まった案件は、終盤で食い違いを起こしやすくなります(三層診断)。

実践領域として何が挙げられているか

実践領域として挙げられているのは、次の項目です。

日本では別々の業界として語られがちな「適性検査」「研修」「組織開発」「コーチング」「変革支援」が、ひとつの領域に同居していることが分かります(コンサルティング心理学とは)。

教育・訓練ガイドライン

部会の活動の柱のひとつが、教育と訓練のガイドライン策定です。2007年版は、博士課程および博士研究員レベルにおけるコンサルティング心理学/組織コンサルティング心理学の教育訓練ガイドラインとして American Psychologist, 62(9), 980-992 に掲載されました。

2017年改訂版については、その要約(executive summary)が American Psychologist 誌に掲載されていることを、書誌データベース(PubMed ID: 31305100)で確認できます。ただし掲載巻号・ページ・著者名までは、執筆時点の調査で確認できませんでした。

本記事で書かないことにしたもの

2017年改訂版の掲載巻号・ページ・著者名は、執筆時点の調査で確認できませんでした。第13部会の設立年、学会誌の創刊年も同様です。確認できていない数字や名前は書かないのが本サイトの方針です。改訂版の中身をここで要約していないのも同じ理由によります。

なお、産業・組織心理学の側(APA第14部会=SIOP)にも別のガイドラインがあります。名前は似ていますが別文書です(隣接領域との違い産業・組織心理学)。

学会誌 Consulting Psychology Journal の位置づけ

この領域の知見が集まる場所が、APAが発行する季刊誌 Consulting Psychology Journal(ISSN 1065-9293)です。編集長は Theodore L. Hays が務め、学会は誌面を "international in scope" と説明しています。

掲載対象は、量的・質的研究、事例研究、概念論文に加え、wisdom papers(実践知を扱う論考)まで含みます。編集方針として明示されているのが次の一文です。

"papers that meet scientific standards, but are also readable, practical, and actionable"

「科学的な水準を満たしつつ、読みやすく、実践的で、行動に移せる」論文。厳密さと実用性のどちらも捨てないことを学会誌のレベルで要求している点が、この領域の性格をよく表しています。

書籍では、APAと第13部会の提携による Fundamentals of Consulting Psychology シリーズ(全6巻)が、コーチング心理学、フォレンジック・コンサルティング、エグゼクティブ・アセスメント、テクニカル・リーダーシップ、倫理、異文化コンピテンスを扱っています。

隣接領域との違い

領域主な軸足この領域との関係
産業・組織心理学(APA第14部会=SIOP)選抜・評価・職務設計などの研究基盤重なりが大きく、両方に所属する実務家も多い
臨床心理学心理的な不調の理解と回復対象は個人の症状。組織の生産性を目的に置かない
組織開発(OD)組織レベルの変革プロセスコンサルティング心理学の中心的な実践領域のひとつ。ただし全体ではない
経営コンサルティング事業・戦略・オペレーションの最適解心理学的な測定と理論を前提にしない点が異なる

線引きにこだわる必要はありませんが、「誰の、何を、どう測って良くするのか」が違えば、依頼先も成果物も変わります。

実務でどう使うか

第一に、課題の階層を見立てる道具になります。 目の前の訴えが個人の問題か、チームの相互作用の問題か、仕組みの問題か。3層で問い直すと打ち手の候補が変わります。個人研修を積み増しても動かない課題が、職務設計の変更で動くことがあります。

第二に、発注時の会話が具体的になります。 3つのモデルのどれで受けるのか、実践領域のどこに当たる仕事なのかを言葉にできれば、提案書の中身を比較できます。

第三に、肩書きに頼らずに判断する構えができます。 国家資格も専門認定もない以上、見るべきは看板ではなく、何を根拠にその打ち手を選んだのかという説明です。詳しくは コンサルティング心理学者は何をする人かどこから学べばよいか を参照してください。

注意点・限界

第一に、ここで整理したのは領域の枠組みであり、効果検証ではありません。 「コンサルティング心理学は効果がある」と一括して言えるメタ分析は存在しません。効果を問うなら、コーチング、リーダーシップ開発、組織開発など構成要素ごとにエビデンスを見る必要があります。

第二に、米国の制度を日本にそのまま移すことはできません。 ガイドラインは「日本でもこう認定されている」という話ではなく、「米国ではこういう水準が想定されている」という参照点として読んでください。

第三に、従業員に不調のサインがある場合は、コーチングや研修ではなく、産業医・医療機関・専門の相談窓口につないでください。この記事は医療的な助言を行うものではありません。

今日からできる小さな一歩

いま抱えている組織の課題をひとつ選び、「これは個人の層か、チームの層か、組織の層か」を紙に書き出してみてください。 そのうえで、これまでに打ってきた施策がどの層に当たっていたかを並べます。3つの層のうち2つが空欄のまま何年も施策を打ち続けていた、という発見は珍しくありません。層のずれに気づくことが、この枠組みの最初の使いどころです。

よくある質問

APA第13部会は、産業・組織心理学の第14部会(SIOP)と何が違うのですか?

重なりは大きく、両方に所属する実務家も少なくありません。おおまかには、第14部会が選抜・評価・職務設計などの研究基盤を厚く持つのに対し、第13部会はクライアントに関与するプロセスそのもの、つまりコンサルテーションのしかたを扱います。教育訓練ガイドラインも別々に作られており、混同しないよう注意が必要です。

日本で「コンサルティング心理学の専門家」を名乗るには資格が要りますか?

日本にはこの領域に対応する国家資格も専門認定もありません。したがって名乗ること自体を規制する仕組みは存在せず、肩書きだけでは実力を判断できません。心理アセスメントや臨床的判断を伴う業務については、公認心理師・臨床心理士など日本の既存資格と、その業務範囲を個別に確認してください。

学会誌 Consulting Psychology Journal はどのような雑誌ですか?

PAが発行する季刊誌で、量的・質的研究、事例研究、概念論文に加えて「wisdom papers」と呼ばれる実践知の論考を扱います。編集方針として「科学的な水準を満たしつつ、読みやすく、実践的で、行動に移せる(readable, practical, and actionable)」論文を求めると説明されています。

この領域の全体像を学ぶには何から読めばよいですか?

日本語で読める体系的な入門はまだ限られています。英語では Lowman (2016) が個人・グループ・組織の3レベルを軸にした標準的なテキストとして知られ、APAとSCPの提携による「Fundamentals of Consulting Psychology」シリーズ(全6巻)がコーチング心理学、エグゼクティブ・アセスメント、倫理などの主題別に整理されています。

参考文献

  1. American Psychological Association (2007). Guidelines for education and training at the doctoral and postdoctoral levels in consulting psychology/organizational consulting psychology. American Psychologist, 62(9), 980-992.
  2. Guidelines for Education and Training at the Doctoral and Postdoctoral Levels in Consulting Psychology/Organizational Consulting Psychology: Executive summary of the 2017 revision. American Psychologist.(PubMed ID: 31305100。執筆時点で巻号・ページ・著者名は確認できなかった)
  3. Lowman, R. L. (2016). An Introduction to Consulting Psychology: Working with Individuals, Groups, and Organizations. APA Books.
  4. Consulting Psychology Journal(American Psychological Association 発行。ISSN 1065-9293)
  5. Fundamentals of Consulting Psychology book series(APAとSociety of Consulting Psychologyの提携による全6巻)
  6. Society of Consulting Psychology (APA Division 13) 公式サイト

本ページは上記の文献等をもとに編集部が作成しています。数値や結論の詳細は必ず原典をご確認ください。

ランダムに読む押すたびに変わります

目的がはっきりしていないときは、偶然にまかせてみてください。サイト内の443ページから3つ選んで表示します。

キーワードから探す

キーワードから探す押すたびに変わります

用語・技法・領域・課題をあわせた512個のキーワードから、毎回ちがう組み合わせで表示します。気になった言葉から入ってみてください。

キーワード一覧を見る