コンサルティング心理学大全Consulting Psychology Compendium
記事エンゲージメント・定着エビデンス:強い根拠

なぜ社員は辞めるのか:離職を心理学から読み解く

離職の直前にあるのは離職意図であり、職務満足や組織コミットメントから離職への影響は、ほぼ完全にそこを経由します。離職意図にはコミットメントより職務満足が強く効くというメタ分析の知見をもとに、何から手をつけるべきかを整理します。

公開 2026-08-25 / 更新 2026-08-25

結論

離職を心理学から読み解くと、経路はかなり明確です。155研究を統合したメタ分析では、職務満足や組織コミットメントといった態度が離職に及ぼす影響は、離職意図をほぼ完全に経由することが示されています。そして離職意図に対しては、組織コミットメントよりも職務満足のほうが強く効くと報告されています。一方、離職率と組織業績の相関は ρ = −.15 と中程度以下であり、非線形の可能性も指摘されています。「離職率をゼロにする」は、目標としても根拠としても適切ではありません。

このページの要点

  • 態度から離職への影響は、離職意図をほぼ完全に媒介すると報告されています。
  • 離職意図には、組織コミットメントより職務満足のほうが強く効きます。
  • 離職の予測因の多くは文脈依存的で、他社の成功事例がそのまま移植できるとは限りません。
  • 離職率と組織業績の相関は ρ = −.15 で、非線形の可能性も指摘されています。
  • 上司の支援は知覚された組織的支援を形成する主要ルートであり、介入点として重要です。

なぜ社員は辞めるのか:結論から

社員が辞める直前には、ほぼ必ず離職意図があります。離職意図とは「この会社を辞めようと考えている」という心理状態のことです。

Tett & Meyer (1993) は155研究を統合し、パス解析によってこの構造を明らかにしました。職務満足や組織コミットメントといった仕事に対する態度が離職という行動に及ぼす影響は、離職意図をほぼ完全に媒介するというものです。態度が直接、辞表の提出につながるのではありません。態度が意図をつくり、意図が行動になります。

さらに実務上重要なのが、同研究のもうひとつの知見です。離職意図に対しては、組織コミットメント(会社への愛着や一体感)よりも、職務満足(仕事そのものへの満足)のほうが強く効くと報告されています。

この二つを合わせると、施策の焦点が見えてきます。会社への愛着を高めるイベントやメッセージより、目の前の仕事に対する満足を左右する条件のほうが、離職意図には近い位置にあるということです。

経路を一枚で

仕事の条件・上司との関係 → 職務満足/組織コミットメント → 離職意図 → 離職。
介入の効果を測るなら、離職率そのものより離職意図の変化を見るほうが早く、感度も高くなります。

何が離職を予測するのか

離職の予測因については、Griffeth ら (2000) が標準的な参照文献として長く用いられてきました。職務満足、組織コミットメント、離職意図、代替的な就業機会の認知、実際の職探し行動などが、離職と関連する変数として整理されています。

その後、Rubenstein ら (2018) が自発的離職の予測因を包括的に更新しました。この研究の最も重要な結論は、個々の予測因の強さそのものよりも、多くの関係が文脈依存的であるという点にあります。ある業界・ある職種で強く働く要因が、別の状況では弱まる、あるいは向きが変わる。

実務への含意は明確です。他社の定着施策をそのまま移植しても、同じ結果は得られにくいということです。「A社では1on1の頻度を上げたら離職が減った」という事例は、A社の文脈込みの結果です。自組織で何が効くかは、自組織のデータで確かめるほかありません。

上司との関係という介入点

離職を考えるとき、最も操作しやすく、かつ影響が大きい変数のひとつが上司との関係です。

Kurtessis ら (2017) は、知覚された組織的支援(POS:会社が自分の貢献を大切にし、自分の幸福に関心を持っていると従業員が感じている程度)についてのメタ分析的評価を行い、上司からの支援がPOSを形成する主要なルートであることを示しました。従業員は、組織という抽象的な存在の意図を、直属の上司の言動を通じて推測します。上司の対応が、そのまま「会社の姿勢」として解釈されるということです。

反対方向の知見もあります。Montano ら (2017) は、破壊的リーダーシップが部下のメンタルヘルスと強い負の関連を持つことを報告しています。良い上司を増やすことと、有害な上司を放置しないことは、別々の課題です。後者は前者より優先度が高い場合があります。

上司側の要因従業員側で起きること離職経路への影響
支援的な関わりPOSが高まる職務満足・コミットメントが上がる
具体的で課題志向のフィードバック改善の見通しが持てる職務満足に寄与
放置・関心の欠如「会社に大切にされていない」と解釈される職務満足が下がる
敵対的・侮辱的な言動メンタルヘルスが悪化する離職意図が高まる

「離職率ゼロ」という目標の問題

多くの組織が離職率を経営指標に掲げます。しかし、この目標設定には二つの問題があります。

第一に、離職率と組織業績の関係はそれほど強くありません。Park & Shaw (2013) は300の相関・のべ約31万人のデータを統合し、離職率と組織業績の相関を ρ = −.15 と報告しました。内訳は、自発的離職 −.15、人員削減型 −.17、非自発的離職 −.01 です。離職率が下がれば業績が上がる、という単純な関係ではありません。同研究は非線形の可能性にも言及しており、離職率が極端に低い状態が最適とは限らないことを示唆しています。

第二に、離職率は「誰が辞めたか」を区別しません。成果を上げている人が辞めるのと、組織に合わないまま留まっていた人が辞めるのとでは、意味がまったく違います。にもかかわらず、両者は同じ1件として集計されます。

離職率をゼロに近づけようとすると、辞めてほしくない人を引き留める努力と、成果の出ていない人を留める努力が、区別されないまま同時に進みます。結果として、組織の新陳代謝が止まることもあります。

指標の置き換え

離職率そのものより、次の三つを分けて見るほうが実務に耐えます。
①辞めてほしくなかった人の離職件数、②入社1年以内の離職件数、③離職意図スコアの部署別推移。
①は経営判断に、②は採用と受け入れの設計に、③は先行指標として使えます。

組織的介入で定着は改善するのか

「働き方や仕事の設計そのものを変える」組織的介入は、心理学的にも筋の通ったアプローチです。ただし、定着への効果については慎重な評価が出ています。

Aust ら (2023) は、52のレビュー・957本の一次研究を対象としたレビューのオーバービューを行い、次のように整理しました。労働時間編成の変更には強い根拠がある。バーンアウトへの効果にも強い根拠がある。しかし、定着(リテンション)への効果は根拠が低く、不確定である、と。

これは「効果がない」という意味ではありません。判断を下せるだけの質の高い証拠がまだ蓄積されていないということです。この違いは重要です。前者なら投資をやめる理由になりますが、後者は「自組織で効果を測りながら進めるべき」という意味になります。

実務としては、組織的介入を行う際に、はじめから測定の設計を組み込むことをおすすめします。介入する部署としない部署を置く、介入前後で同じ尺度を測る、離職意図を先行指標として追う。この準備があるかどうかで、二年後に語れることが変わります。

何から手をつけるか

以上の知見から、優先順位はおおむね次のように整理できます。

  1. 有害な上司の言動を止める。 破壊的リーダーシップはメンタルヘルスと強く負の関連を持ちます。良い施策を積むより先に、明確に害のある状態を止めるほうが確実です。
  2. 職務満足の規定要因を洗い出す。 離職意図に最も近いのは職務満足です。仕事の内容、裁量、役割の明確さ、成長の見通し。どれが低いのかを部署単位で把握します。
  3. 上司の支援行動を具体化する。 POSは上司を通じて形成されます。「部下を大切にせよ」ではなく、「相談に対して48時間以内に反応する」など、観察できる行動に落とします。
  4. 離職意図を先行指標として測る。 離職率は遅行指標です。意図の推移を匿名で追えば、半年から一年早く兆候をつかめます。
  5. 辞めてほしくない人を特定しておく。 全員に同じ施策を打つのは効率が悪く、また誰も引き留められないことがあります。

注意点・限界

第一に、離職の予測因は文脈依存的です(Rubenstein et al., 2018)。本記事の優先順位も、自組織のデータで検証すべき仮説として扱ってください。

第二に、多くの研究は自己報告と横断的データに基づいています。因果の向きを断定できる場面は限られます。

第三に、個人の離職意図を特定する目的でサーベイを運用すると、回答の信頼性が失われるだけでなく、「監視されている」という認識が新たな離職要因になります。集計単位と目的の設計を先に決めてください。

第四に、心身の不調が背景にある場合、人事施策では対応できません。産業医、社内外の相談窓口、専門機関につなぐ経路を整えておく必要があります。

今日からできる小さな一歩

過去1年に辞めた人のリストを開き、「辞めてほしくなかった人」に印をつけてみてください。全体の離職率ではなく、その印の数だけを見ます。そして、印のついた人の直属上司が誰だったかを並べてみる。この二つの作業だけで、次に確かめるべき問いがかなり絞り込まれます。

よくある質問

離職率は何%を目標にすべきですか?

研究から特定の目標値を導くことはできません。離職率と組織業績の相関は ρ = −.15 で、非線形の可能性も指摘されています(Park & Shaw, 2013)。業種、職種、労働市場の状況で適正水準は大きく変わります。目標にするなら離職率そのものより、「辞めてほしくない人が辞めた件数」を見るほうが実務的です。

給与を上げれば離職は止まりますか?

一時的に離職意図を下げることはありますが、それだけで説明できる現象ではありません。離職意図に強く効くのは職務満足であり、その規定要因には仕事の内容、上司との関係、成長の見通しなどが含まれます。報酬は必要条件になりうるものの、十分条件ではないと考えるのが妥当です。

辞める兆候は事前にわかりますか?

離職意図は最も近位の予測因なので、それを把握できれば手がかりになります。ただし、意図を直接尋ねるサーベイは回答が歪みやすく、匿名性が確保されない場合は特に注意が必要です。個人の特定を目的とした運用は信頼を損ない、かえって離職を早めることがあります。

組織的な介入で定着は改善しますか?

現時点では確実とは言えません。52のレビュー・957本の一次研究を統合したオーバービューでは、組織的介入のバーンアウトへの効果には強い根拠がある一方、定着への効果は根拠が低く不確定と評価されています(Aust et al., 2023)。効果がないという意味ではなく、判断できるだけの質の高い証拠がまだ足りない、という意味です。

退職面談は役に立ちますか?

辞める理由を本音で語るとは限らないため、単独の情報源としては弱いものです。在職者への定期的な調査、上司との関係の指標、職務満足の推移といった複数のデータと突き合わせて読むと、解釈の精度が上がります。

参考文献

  1. Tett, R. P., & Meyer, J. P. (1993). Job Satisfaction, Organizational Commitment, Turnover Intention, and Turnover: Path Analyses Based on Meta-Analytic Findings. Personnel Psychology.
  2. Griffeth, R. W., Hom, P. W., & Gaertner, S. (2000). A Meta-Analysis of Antecedents and Correlates of Employee Turnover. Journal of Management.
  3. Rubenstein, A. L., Eberly, M. B., Lee, T. W., & Mitchell, T. R. (2018). Surveying the Forest: A Meta-Analysis of the Antecedents of Voluntary Employee Turnover. Personnel Psychology.
  4. Park, T.-Y., & Shaw, J. D. (2013). Turnover Rates and Organizational Performance: A Meta-Analysis. Journal of Applied Psychology.
  5. Kurtessis, J. N., Eisenberger, R., Ford, M. T., Buffardi, L. C., Stewart, K. A., & Adis, C. S. (2017). Perceived Organizational Support: A Meta-Analytic Evaluation of Organizational Support Theory. Journal of Management.
  6. Aust, B., et al. (2023). How Effective Are Organizational-Level Interventions in Improving the Psychosocial Work Environment, Health, and Retention of Workers? Scandinavian Journal of Work, Environment & Health.
  7. Montano, D., Reeske, A., Franke, F., & Hüffmeier, J. (2017). Leadership, Followers' Mental Health and Job Performance in Organizations. Journal of Organizational Behavior.

本ページは上記の文献等をもとに編集部が作成しています。数値や結論の詳細は必ず原典をご確認ください。

ランダムに読む押すたびに変わります

目的がはっきりしていないときは、偶然にまかせてみてください。サイト内の443ページから3つ選んで表示します。

キーワードから探す

キーワードから探す押すたびに変わります

用語・技法・領域・課題をあわせた512個のキーワードから、毎回ちがう組み合わせで表示します。気になった言葉から入ってみてください。

キーワード一覧を見る