コンサルティング心理学大全Consulting Psychology Compendium

アブラハム・マズロー

Abraham H. Maslow(1908–1970)

病理ではなく健康な人の側から人間を理解しようとし、人間性心理学の中心にいた心理学者である。仕事の場に欲求と自己実現という語彙を持ち込んだ点で、経営の言葉にも大きな影響を残した。

肩書き
心理学者。欲求階層説と自己実現の研究で知られる
活動した国
アメリカ
生没
1908–1970
分野
モチベーション・働きがい
収録した言葉
1件

何をした人か

ブルックリン大学、ブランダイス大学で教え、一九四三年の論文で生理的欲求・安全・所属と愛・承認・自己実現という欲求の系列を提示した。低次の欲求がある程度満たされると次の欲求が現れるという説明で、動機づけを一つの枠に収めた。後年は認知的欲求と審美的欲求を加え、系列は固定した順序ではないとも述べている。一九六二年の工場での滞在をもとに書いた『自己実現の経営』では、人を信頼して任せる管理(Y理論の系譜)を実地に検討し、条件つきでしか成立しないと率直に記録した。金槌しか持たない者にはすべてが釘に見える、という比喩も彼の言葉である。

その後、どう扱われているか

動機づけを多層で考える発想は残ったが、階層説そのものは実証されていない。Wahba & Bridwell (1976) の総説は、五段階の区分にも「下位が満たされると上位が現れる」という順序にも十分な証拠がないと結論した。Tay & Diener (2011) は、各欲求と幸福の関連は国を越えて確認できる一方、満たされる順序は固定していないと報告している。つまり支持されたのは欲求の存在であって、階層という構造ではない。

よくある誤解

ここが取り違えられやすい

マズロー本人はピラミッドの図を描いていない。あの三角形は後年に教科書や解説者が作った図で、階層の厳密な順序も本人が晩年に緩めている。図の印象で理論を語らないほうがよい。

主著・主要論文

  1. Maslow, A. H. (1943). A theory of human motivation. Psychological Review, 50(4), 370–396.
  2. Maslow, A. H. (1954). Motivation and Personality. Harper & Row.
  3. Maslow, A. H. (1962). Toward a Psychology of Being. Van Nostrand.
  4. Maslow, A. H. (1965). Eupsychian Management: A Journal. Richard D. Irwin.
  5. Maslow, A. H. (1966). The Psychology of Science: A Reconnaissance. Harper & Row.

刊行年・出版社まで確認できたものを挙げています。邦訳の有無や版によって表記が異なる場合があります。

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