キャス・サンスティーン
Cass R. Sunstein(1954–)
「ナッジ」という言葉を世に広めた法学者。選択の自由を残したまま、選択肢の並べ方や初期設定を変えるだけで行動は変わるという考え方を、規制政策の道具にまで押し上げた。
- 肩書き
- 法学者・行動科学者。ナッジと選択設計の提唱者
- 活動した国
- アメリカ
- 生没
- 1954–
- 分野
- 意思決定・行動科学
- 収録した言葉
- 1件
何をした人か
シカゴ大学ロースクールで長く教えたのち、二〇〇八年にハーバード大学へ移った。専門は憲法・行政法だが、経済学者リチャード・セイラーとの共著『Nudge』で、人は初期設定や提示のされ方に強く影響されるという行動科学の知見を、政策設計の言語に翻訳した。二人はこれを「リバタリアン・パターナリズム」と呼び、選択肢を禁じず経済的な誘因も大きく変えない、という条件を定義そのものに組み込んでいる。二〇〇九年から二〇一二年まで米国の情報規制問題室(OIRA)を率い、規制の費用便益分析と行政手続の簡素化を実務として進めた。集団の意思決定にも取り組み、ハスティとの共著では、集団が個人より賢くなる条件と、同調によって誤りが増幅される条件を分けて整理している。
その後、どう扱われているか
ナッジは各国政府が専門部署を置くほど普及したが、効果量の評価は割れている。メルテンスらの二〇二二年のメタ分析は平均d=0.43と報告し、同じ年にマイアーらは出版バイアスを補正すると効果の証拠は残らないと再分析した。デラヴィーニャとリノスが二つの政府ナッジ部署の全試行を集計した研究では、平均効果は1.4ポイントで、学術誌掲載研究の8.7ポイントの六分の一程度だった。一方、年金の自動加入のように初期設定を変える型の介入は、大規模データでも安定して効果が出ている。議論は「ナッジは効くか」から「どの型がどこで効くか」に移っている。
よくある誤解
ナッジは行動を誘導する工夫の総称ではない。定義上、選択肢を禁じず、経済的な誘因も大きく変えないものに限られる。義務化や罰金、大きな金銭的報酬はナッジではなく、この線引きが賛否の議論の前提になっている。
主著・主要論文
- Thaler, R. H., & Sunstein, C. R. (2008). Nudge: Improving Decisions About Health, Wealth, and Happiness. Yale University Press.
- Sunstein, C. R. (2001). Republic.com. Princeton University Press.
- Sunstein, C. R. (2013). Simpler: The Future of Government. Simon & Schuster.
- Sunstein, C. R., & Hastie, R. (2014). Wiser: Getting Beyond Groupthink to Make Groups Smarter. Harvard Business Review Press.
刊行年・出版社まで確認できたものを挙げています。邦訳の有無や版によって表記が異なる場合があります。