エドワード・デシ
Edward L. Deci(1942–2026)
報酬を与えると、かえってやる気が減ることがある。一九七〇年前後の一連の実験でそれを示し、リチャード・ライアンとともに、動機づけの質を問う自己決定理論を築いた心理学者である。
- 肩書き
- 心理学者。自己決定理論を構築した動機づけ研究者
- 活動した国
- アメリカ
- 生没
- 1942–2026
- 分野
- モチベーション・働きがい
- 収録した言葉
- 1件
何をした人か
一九七〇年にロチェスター大学へ着任し、以後の研究生活をほぼ同大学で過ごした。初期の実験では、パズル課題に金銭報酬を与えた群のほうが、報酬のない自由時間に自発的に課題へ戻る時間が短くなることを示し、外発的報酬が内発的動機づけを損ないうると論じた。この主張は当時の行動主義的な前提と衝突し、長い論争を招いている。デシとライアンはその後、動機づけを「ある/ない」という量ではなく、外的な統制から自律的な内在化まで連続的に並ぶ質の問題として捉え直し、自律性・有能感・関係性という三つの基本欲求で説明する自己決定理論を組み立てた。職場については、目標を押しつけずに理由を説明し選択の余地を残す「自律性支持」が、成果より先に動機づけの質を変えると論じている。
その後、どう扱われているか
自律的な動機づけと統制された動機づけを区別する枠組みは、職場・教育・医療・スポーツで広く採用され、自律性支持が満足度や継続率と結びつくという知見は多数の研究で再現されている。一方、「報酬は内発的動機づけを損なう」という命題は無条件ではない。デシらの一九九九年のメタ分析でも、効果が明確に出るのは課題の遂行に結びついた、事前に予告された有形報酬の場合であり、言語的な承認はむしろ内発的動機づけを高めていた。キャメロンとピアスは条件をさらに限定的だと主張し、論争は完全には決着していない。実務で支持されるのは「報酬をやめよ」ではなく「統制の道具として使うな」までである。
よくある誤解
「報酬を出すとやる気が下がる」は単純化しすぎである。デシら自身のメタ分析でも、下がるのは課題の遂行に結びついた予告つきの有形報酬の場合で、言葉による承認はむしろ内発的動機づけを高めていた。
主著・主要論文
- Deci, E. L. (1971). Effects of externally mediated rewards on intrinsic motivation. Journal of Personality and Social Psychology, 18(1), 105–115.
- Deci, E. L. (1975). Intrinsic Motivation. Plenum Press.
- Deci, E. L., Koestner, R., & Ryan, R. M. (1999). A meta-analytic review of experiments examining the effects of extrinsic rewards on intrinsic motivation. Psychological Bulletin, 125(6), 627–668.
- Ryan, R. M., & Deci, E. L. (2000). Self-determination theory and the facilitation of intrinsic motivation, social development, and well-being. American Psychologist, 55(1), 68–78.
- Ryan, R. M., & Deci, E. L. (2017). Self-Determination Theory: Basic Psychological Needs in Motivation, Development, and Wellness. Guilford Press.
刊行年・出版社まで確認できたものを挙げています。邦訳の有無や版によって表記が異なる場合があります。