ゲイリー・クライン
Gary Klein(1944–)
消防の指揮官や看護師が、選択肢を比べもせずに一つの案をいきなり実行に移すのはなぜか。実際の現場を観察するところから、熟達者の直観のはたらきを説明した心理学者である。
- 肩書き
- 認知心理学者。自然主義的意思決定研究の中心人物
- 活動した国
- アメリカ
- 生没
- 1944–
- 分野
- 意思決定・行動科学
- 収録した言葉
- 1件
何をした人か
空軍の研究心理学者を経て一九七八年にクライン・アソシエイツを設立し、消防・軍・医療といった時間が切迫した現場で意思決定を観察した。そこで見えたのは、複数案を比較して最適を選ぶという教科書的な手順ではなかった。熟練者は状況のパターンを認識し、まず一つの行動案が思い浮かび、それを頭の中で実行してみて不都合がなければ採用する。彼はこれを認知プライム意思決定モデルと呼んだ。あわせて認知的タスク分析という面接手法を整え、熟達者の判断を引き出して訓練や機器設計に使う道筋も作っている。計画が失敗したと仮定して原因を挙げさせる「プリモータム」も彼の提案である。
その後、どう扱われているか
熟達者の直観を「勘」で片づけずに記述した点は、訓練設計や事故調査に取り込まれて残っている。ただし境界は明確に引かれた。二〇〇九年にカーネマンと共同で書いた論文の結論は、直観が信頼できるのは、環境に十分な規則性があり、その規則性をフィードバックのある長い経験で学べた場合に限られる、というものである。消防や麻酔科はその条件を満たすが、採用面接や株式選択は満たさない。認知プライム意思決定モデル自体は記述的で、反証が難しいという批判もある。プリモータムについても、実際に意思決定の質を改善したことを示す証拠はまだ限られている。
よくある誤解
「直観は信頼できる」という主張ではない。カーネマンとの共同論文が示した条件は厳しく、規則性のある環境で長期のフィードバックを受けて学べた領域に限られる。採用面接はその条件を満たさないと明記されている。
主著・主要論文
- Klein, G. A. (1998). Sources of Power: How People Make Decisions. MIT Press.
- Klein, G. (2004). The Power of Intuition. Currency/Doubleday.
- Kahneman, D., & Klein, G. (2009). Conditions for intuitive expertise: A failure to disagree. American Psychologist, 64(6), 515–526.
- Klein, G. (2009). Streetlights and Shadows: Searching for the Keys to Adaptive Decision Making. MIT Press.
刊行年・出版社まで確認できたものを挙げています。邦訳の有無や版によって表記が異なる場合があります。