リチャード・セイラー
Richard H. Thaler(1945–)
人が経済学の想定どおりには振る舞わない例を丹念に積み上げ、行動経済学を一つの分野として確立した研究者。サンスティーンとの共著でナッジという言葉を世に広め、ノーベル経済学賞を受けた。
- 肩書き
- 行動経済学者。ナッジの提唱者
- 活動した国
- アメリカ
- 生没
- 1945–
- 分野
- 意思決定・行動科学
- 収録した言葉
- 1件
何をした人か
出発点は、経済学の予測から外れる現象を集めた記録だった。手放すときの価格が買うときより高くなる保有効果、心の中で財布を分けて扱う心的会計、後の自分に不利な選択をしてしまう先延ばしなど、教科書の想定と合わない例を整理していった。ナッジは、選択肢を減らさず、経済的な誘因も大きく変えずに、選択の見せ方や初期設定によって行動を変える工夫を指す。企業年金の自動加入や、掛金を昇給のたびに自動で引き上げるセイブ・モア・トゥモローは、その代表例として実際の制度に組み込まれ、加入率と貯蓄率を押し上げた。二〇一七年にノーベル経済学賞を受けている。
その後、どう扱われているか
初期設定を変える介入、たとえば年金の自動加入は効果が大きく、繰り返し再現されている。一方、ナッジ全体の効果については見直しが進んだ。メルテンスらは二〇二二年のメタ分析で中程度の効果を報告したが、同じ年にマイアーらが、出版バイアスを補正すると効果はほぼ消えると反論し、論争になっている。大規模な実地試験でも、平均効果は学術論文の報告よりかなり小さい。現時点で言えるのは、初期設定のように構造へ触れる介入は強く、情報提示や注意喚起にとどまる介入は弱い、という区別である。
よくある誤解
社内施策を広くナッジと呼ぶ例が増えているが、定義には選択肢を禁じないことと、経済的な誘因を大きく変えないことが含まれる。義務化や評価との連動で動かす施策はナッジではない。
主著・主要論文
- Thaler, R. H. (1980). Toward a positive theory of consumer choice. Journal of Economic Behavior & Organization, 1(1), 39–60.
- Thaler, R. H., & Benartzi, S. (2004). Save More Tomorrow. Journal of Political Economy, 112(S1), S164–S187.
- Thaler, R. H., & Sunstein, C. R. (2008). Nudge: Improving Decisions About Health, Wealth, and Happiness. Yale University Press.
- Thaler, R. H. (2015). Misbehaving: The Making of Behavioral Economics. W. W. Norton.
刊行年・出版社まで確認できたものを挙げています。邦訳の有無や版によって表記が異なる場合があります。