提案大全
提案が通るかどうかは、中身だけでなく言い方で変わります。準備・切り出し・案の見せ方・懸念への対応・決めてもらい方まで、そのまま口に出せる提案の言葉を100件、使う場面と注意点つきでまとめました。
全100件
この辞書の編集方針
説得の心理学として広まった技法の多くは、2010年代以降の再現性の検証で効果が小さいと分かったり、再現しなかったりしています。この辞書は、その現在地を踏まえて書かれています。
- 相手の理解を助ける言い方(結論を先に置く、基準を明示する、図にする)
- 判断に必要な情報を渡しきる言い方(弱点を先に言う、出典を示す、効果の大きさを言う)
- 相手が断れる状態を保つ言い方(断り方を先に渡す、決めるのは相手だと言う)
- 決めたあとに実行が続く言い方(測り方を先に決める、見直す日を決める)
- 実際には無い締切や希少性を口にする言い方
- 罪悪感や不安を利用して動かす言い方
- 不利な情報や選択肢を意図的に隠すやり方
- 相手が気づかないうちに判断を歪める、と称する技法
効果を誇張しません。「必ず通る」「相手は断れなくなる」といった書き方はしていません。どの言い方にも効かない条件があり、各ページの「注意点・限界」に必ず書いています。通すことより、正しく決まることを優先する——それが、提案を続けられる唯一の条件だと考えています。
場面別プレイブック
この辞書は、困ったときに引く辞書です。ひとつの提案が始まってから終わるまでを順路として並べ直したものが、場面別プレイブックです。
準備する12件
判断基準を先に聞く
「どんな条件がそろえば、進められる話になりますか」
案の中身は固まっているが、相手が何をもって良し悪しを決めるのかが分からないとき。
伝える手段を選ぶ
「この件は、十五分だけ直接お話しさせていただけますか」
重い依頼をメールで済ませようとしていて、返信が来ない状態が続くとき。
出す時期を選ぶ
「今日でなくても構いません。来週のほうがよければ改めます」
案の完成度は上がったが、相手の側に別の大きな案件が動いているとき。
反論を先に集める
「この案の弱いところを、先に指摘していただけますか」
案に自信があり、想定される反論をまだ言葉にできていないとき。
相手の代替案を知る
「この案を採らない場合は、どうなさる見込みですか」
自分の案の良さは説明できるが、相手が他に何を持っているかを知らないとき。
自分の目的を一行にする
「今日は、この一点だけご相談させてください」
資料は作り込んだが、自分が相手に何をしてほしいのかを一文で言えないとき。
同席者を決める
「現場の方にも一人入っていただくことはできますか」
誰を呼ぶかを相手任せにしていて、賛成しそうな人ばかり集まりそうなとき。
決裁者を先に特定する
「この件は、最終的にどなたが決める形になりますか」
会ってくれる人はいるが、その人が決められる立場かどうかを確かめていないとき。
事前に一人ずつ話す
「本番の前に、一度お考えを伺えないでしょうか」
会議の場でいきなり出すか、事前に個別に説明しておくか迷っているとき。
過去の経緯を調べる
「この件は、過去にも検討されたことがありますか」
初めて出す案のつもりでいるが、社内では以前にも似た話が出ていた可能性があるとき。
断られ方を想定する
「もし難しいとしたら、どのあたりが理由になりそうですか」
提案が通る前提で準備していて、断られたときの受け答えを考えていないとき。
頼む量を決める
「まずは一部署だけ、三か月の試行でいかがでしょうか」
全体像を一度で通そうとしていて、相手が決められる範囲を超えているとき。
切り出す11件
話していいか尋ねる
「一つ提案があるのですが、聞いていただけますか」
相手が求めていない提案を、こちらから持ち出そうとしているとき。
悪い話を先に置く
「よくない見通しをお伝えします。対応案もあわせて持ってきました」
都合の悪い数字や遅れを、説明の最後まで伏せておきたくなっているとき。
使える時間を確かめる
「今日は何分いただけますか。十分なら要点だけにします」
資料の分量が決まっているのに、相手が使える時間を確認していないとき。
前回からつなぐ
「前回いただいた宿題から、お話しさせてください」
前回の面談から時間が空き、そのまま新しい話を始めようとしているとき。
自分の立場を明かす
「私の立場も申し上げます。この案が通れば当社の受注になります」
提案が通ることで自分にも利益があり、それを言わずに進めようとしているとき。
助言として差し出す
「私の意見としてではなく、助言としてお伝えします」
同じ内容が「こちらの都合の押しつけ」と受け取られそうなとき。
断り方を先に渡す
「難しければ「今期は見送ります」とだけおっしゃってください」
相手が立場上断りにくく、形だけの同意になってしまいそうなとき。
今日決めたいことを言う
「今日決めていただきたいのは、進めるかどうかの一点です」
議題は共有したが、今日どこまで決めるのかが宣言されていないとき。
忙しい相手への一文
「一分で申し上げます。ご判断いただく点は二つです」
立ち話や短い面談で、要点だけを伝えなければならないとき。
場の目的をそろえる
「今日は、来期の体制について相談に来ました」
会議の冒頭で、何のための時間かが人によって違って理解されていそうなとき。
依頼を先に言う
「お願いがあって参りました。人を一人お借りしたいのです」
頼みごとがあるのに、遠回しな説明から入って本題に届かないとき。
関心をつかむ11件
決裁者の評価軸を聞く
「決裁の場では、何が問われることが多いですか」
目の前の相手は賛成しているが、その上で判断する人の基準が見えないとき。
他の人の目で聞く
「現場の方なら、この案をどう見ると思いますか」
相手の本音が出にくく、賛成とも反対ともつかない返事が続くとき。
何が変わったのか聞く
「去年と比べて、何が変わったのでしょうか」
「今は難しい」とだけ言われ、その理由の中身が分からないとき。
相手の言葉を使う
「さきほどの「回らない」という言葉に沿って話します」
こちらの専門用語で説明していて、相手の反応が薄くなっているとき。
すでにある努力を認める
「すでに手を打たれている部分から教えてください」
改善提案を持ち込むが、相手はすでに相当の手を打っている可能性があるとき。
動いている例を聞く
「社内で、すでにうまくいっている部署はありますか」
外部の事例を並べても、自分たちには当てはまらないと言われるとき。
問題を相手の言葉に
「いま困っていることを、そのままの言葉で教えてください」
こちらの見立てはあるが、相手がそれを問題だと思っているか確かめていないとき。
できない理由を聞く
「やらない理由のほうも、聞かせていただけますか」
相手を前向きな発言に誘導しようとして、反対の言葉を遮っているとき。
立場と利害を分ける
「反対されている理由を、もう少し具体的に伺えますか」
相手の要求と自分の要求が正面からぶつかり、譲歩の応酬になっているとき。
沈黙を待つ
「少し考える時間を取りましょう」
問いを投げたあと、間が空くのが気まずくて自分で答えてしまうとき。
誰の困りごとか確かめる
「これは、どなたが困っている話でしょうか」
問題は共有されているが、誰が責任を持って動くのかが決まっていないとき。
案の見せ方11件
結論から先に言う
「結論から申します。この案を来期から始めたいと考えています」
背景の説明が長くなり、相手が何の話をされているか分からないまま時間が過ぎているとき。
飾りを削る
「装飾は外して、判断に要る数字だけ残しました」
資料が厚くなり、どれが判断材料でどれが参考なのか区別できなくなっているとき。
同価値の案を同時に出す
「どちらも当社としては同じ価値です。御社の都合で選んでください」
単一の案を出しては断られ、そのたびに条件だけを下げる交渉になっているとき。
やらない案も並べる
「何もしない場合にどうなるかも、一枚にまとめてあります」
実行する案だけを並べていて、現状のままと比べる材料を渡していないとき。
相手の言葉で名づける
「この取り組みは、御社では何と呼ぶのが自然でしょうか」
施策に社外の呼び名をつけていて、社内の会話で口に出しにくくなっているとき。
案は三つ前後にする
「今日は三案お持ちしました。どれも実行できる形にしてあります」
検討した案が十以上あり、そのすべてを並べて見せようとしているとき。
一つの事例から入る
「まず、ある一人の担当者に起きたことをお話しします」
数字を並べても相手の反応が薄く、問題が自分たちの話として届かないとき。
要求でなく提供にする
「こちらで運用まで引き受ける形で、ご提供できます」
相手に負担を求める話を、そのまま要求の形で切り出そうとしているとき。
一枚の図にする
「言葉より早いので、図でご説明します」
登場する部署や工程が多く、文章で説明すると相手が途中で追えなくなるとき。
見る場所を示す
「この表で見ていただきたいのは、右端の一列だけです」
表やグラフの情報量が多く、相手がどこを見ればよいか分からずに黙っているとき。
段階に分けて出す
「まず三か月、一部署だけで試させてください」
全体像を一度で通そうとして、決裁の重さに相手が引いてしまっているとき。
根拠の示し方11件
比べる条件をそろえる
「同じ期間・同じ部署で比べた数字だけを載せています」
導入前後の数字を並べているが、その間に他の要因も同時に動いているとき。
他社事例の限界を書く
「この事例は規模が三倍です。そのまま当てはめられません」
他社の成功事例を並べていて、自社との条件の違いに触れていないとき。
身近な例を挙げる
「隣の第二営業部が、半年前から同じやり方をしています」
遠い他社や海外の事例ばかりで、相手が自分たちの話として受け取らないとき。
危険は対処と対で示す
「起こりうる最悪の事態と、その場合の手当てを並べました」
現状を放置した場合の損失を強調して、相手を動かそうとしているとき。
数字の丸め方を選ぶ
「概算では三千万円台です。詳細は精査のうえお出しします」
見積もりを出す場面で、丸めた数字と細かい数字のどちらを出すか迷うとき。
弱点は反駁と対で書く
「弱いところを二つ申し上げ、対処もあわせてお話しします」
資料に弱点を書き添えたものの、それに対する答えを用意していないとき。
分からない点を先に言う
「分かっていない点を、先に三つ申し上げます」
見通しに不確かな部分があり、質問されるまで触れずに済ませようとしているとき。
出典をその場で出す
「この数字の出どころは、この一枚に全部載せてあります」
引用した数字の出どころを口頭でしか言っておらず、確かめる手段を渡していないとき。
情報の質を先に示す
「この数値がどこまで確かかを、先にお伝えします」
権威や肩書きで信用を得ようとして、根拠そのものの確かさを説明していないとき。
合意と実行を分けて示す
「合意までは進みました。実際に動いた件数は別に出します」
施策の成果を、参加人数や合意件数だけで報告しようとしているとき。
効果の大きさを言う
「効果は小さいと見ています。ただ、積み上がる種類のものです」
施策の効果を「改善します」とだけ書き、どの程度なのかを示していないとき。
懸念に応える11件
答えられないと言う
「その点は分かりません。来週までに調べてお答えします」
想定外の質問を受け、その場を埋めるために推測で答えそうになっているとき。
できない理由を分解する
「できない理由は、費用と人手と時期のどれでしょうか」
「うちでは無理です」とまとめて断られ、どこが無理なのか分からないとき。
反論を自分で先に言う
「必ず出るご指摘を、先に一つ申し上げます」
会議のあと別の場で反対意見が出て、こちらが答えられない状態になりそうなとき。
先回りは控えめにする
「気になる点は、一つだけ先に申し上げます」
想定問答を作り込みすぎて、聞かれてもいない反論まで説明しはじめているとき。
黙る反対者に届ける
「この場で言いにくければ、あとで個別に伺います」
会議では誰も反対しないのに、決まったあとで実行がまったく進まないとき。
誤りと不安を分ける
「数字の誤りと、ご不安な点を分けて伺えますか」
相手の指摘に、事実としての誤りと感情としての不安が混ざって出てきているとき。
押し返しは一度で止める
「私の考えは申し上げました。判断はお任せします」
反対されて説明を重ね、相手の口調が硬くなっているのに引けなくなっているとき。
条件を組み替える
「その条件が必要なのは、何を守るためでしょうか」
譲れない条件を互いに主張し合い、金額や期日の押し引きだけになっているとき。
懸念を質問にしてもらう
「気になる点を、質問の形にしていただけますか」
相手が渋い顔をしているのに、はっきりした反対意見としては出てこないとき。
過去の失敗を出されたら
「あのときと何が違うのかを、先に申し上げます」
「前にも同じことをやって失敗した」と言われ、話が先に進まなくなったとき。
持ち帰りたいと言われたら
「お持ち帰りで結構です。いつ頃お返事をいただけますか」
その場で決まらず「持ち帰って検討します」と言われ、次の接点が決まっていないとき。
決めてもらう11件
賛成でなく異議を聞く
「全員の賛成は求めません。進めるうえで困る方はいますか」
全会一致を待って何度も持ち帰りになり、決定そのものが先送りされ続けているとき。
足りない材料を聞く
「あと何が分かれば、判断できる状態になりますか」
反対とも賛成とも言われないまま、判断が止まっている理由が分からないとき。
戻せる決定か確かめる
「これは、あとから戻せる決定でしょうか」
すべての論点を同じ重さで議論していて、決定の速さが一律に落ちているとき。
期限を偽らない
「この期限は当社の都合です。動かせる余地はあります」
決断を早めたくて、実際にはない締切や制約を口にしそうになっているとき。
その場の言質を求めない
「今日はお返事をいただかなくて結構です」
その場で「やります」と言わせようとして、相手の口調が防御的になってきたとき。
先送りも選択肢に置く
「今日決めない、という選択肢も並べておきます」
決めることを迫るあまり、決めない場合に何が起きるかを誰も検討していないとき。
決める事と期日を言う
「今日決めていただきたいのは、着手するかどうかの一点です」
話は前向きに終わったのに、何がいつまでに決まるのかが誰にも書かれていないとき。
小さく試す形にする
「一つの部署で三か月だけ、試させていただけませんか」
全社導入の是非を一度に決めようとして、判断が重すぎて止まっているとき。
賛成の度合いを数字で聞く
「十段階でいうと、いまどのあたりでしょうか」
全員が「いいと思います」と言っているのに、実行段階では誰も動かない予感があるとき。
決めるのは相手だと言う
「採るかどうかを決めるのは御社です。私は材料をお出しします」
熱心に説明するうちに、相手が断りにくい空気になっていると感じたとき。
次の一手を具体化する
「次に動くのは誰で、いつまでかを決めておきましょう」
合意はできたが、明日から誰が何をするのかが決まらないまま解散しそうなとき。
そのあと11件
測り方を先に決める
「うまくいったと言える状態を、先に決めておきませんか」
施策を始める前に、何をもって成否を判断するかが誰とも合意できていないとき。
何が変われば変わるか
「どういう状況になれば、この案は検討に値しますか」
断られた案を捨てるか作り直すかを、自分の推測だけで決めようとしているとき。
関係を残して終える
「今回はここまでですが、状況が変わればまたお声がけください」
交渉や提案がまとまらず、そのまま連絡が途切れそうになっているとき。
決定をその場で読み上げる
「いま決まったことを、確認のため読み上げます」
会議が終わりかけていて、参加者ごとに決まった内容の理解がずれていそうなとき。
断りを素直に受け取る
「承知しました。今回は見送りということですね」
提案が断られた直後で、つい理由を説明し直したくなっているとき。
理由まで議事に残す
「なぜこの案にしたかも、記録に残してよいでしょうか」
決定の結論だけが議事録に残り、半年後に同じ議論が最初から蒸し返されるとき。
棚上げの案を戻す
「昨年止まっていた件ですが、前提が変わりました」
一度保留になったまま誰も触れなくなった案を、もう一度議題に戻したいとき。
その日のうちに送る
「本日の要点を、夕方までにお送りします」
会議から数日が経ち、決まったことの温度が関係者のあいだで下がっているとき。
見直す日を決めておく
「半年後の同じ週に、続けるかどうかを見直しましょう」
一度始めた施策が、成果の有無にかかわらず止められなくなりそうなとき。
助言の使い道を返す
「いただいた指摘のうち、二つは案に反映しました」
相手から意見や助言をもらったあと、それをどう扱ったかを伝えていないとき。
実行が止まったとき
「進んでいないのは、何が邪魔をしているのでしょうか」
決まったはずの施策が三か月動いておらず、担当に確認しづらくなっているとき。
通る組織をつくる11件
決め方を先に決める
「案を見る前に、何を基準に選ぶかを決めませんか」
案が出そろってから基準の話になり、議論が好みの言い合いになっているとき。
提案が出る会議にする
「この会議は案を出す場です。決めるのは次回にします」
会議のたびに同じ人だけが話し、若手からの提案がまったく出てこないとき。
反対を先に出させる
「この案が一年後に失敗しているとしたら、原因は何でしょう」
決定の直前で、反対意見がひとつも出ないまま全員がうなずいているとき。
却下の伝え方
「案そのものは筋がよいと思います。採らない理由は予算です」
提案を採らないと決めたが、それをどう伝えるかをまだ考えていないとき。
提案の履歴を残す
「出された案は、通らなかったものも一覧に残しています」
過去に検討した案が記録されておらず、同じ議論が定期的に繰り返されているとき。
上に上げやすくする
「上に出す形に、こちらで整えます。中身は変えません」
現場の案が課長のところで止まり、経営まで上がらない状態が続いているとき。
少数意見を残す
「一人だけ違う意見でした。その内容を記録に残します」
多数で方向が決まりかけていて、違う意見が引っ込められそうになっているとき。
反対役では代われない
「本当に反対の方がいれば、その方に話していただきたい」
反対役を割り当てる形式を導入したのに、議論の中身がまったく変わらないとき。
安全性と責任感は別
「言いにくいことを言える場と、案が出る場は別に作ります」
心理的安全性を高める取り組みをしたのに、新しい案がまったく増えていないとき。
出す場と決める場を分ける
「今日は案を集めるだけにします。採否は来週決めます」
案を出した瞬間に評価が始まり、二つ目以降の案が出なくなっているとき。
研修だけでは変わらない
「研修は入口です。会議の進め方まで変えないと戻ります」
提案が出る組織にしたいという相談に、研修の実施だけで答えようとしているとき。