コンサルティング心理学大全Consulting Psychology Compendium
Q&Aエンゲージメント・定着エビデンス:強い根拠

離職率を下げるには、何から手をつければいいですか?

離職率を下げる出発点は、離職率そのものではなく離職意図です。メタ分析では職務満足が離職意図に強く効き、上司の支援が組織的支援の主要ルートだと報告されています。「離職率ゼロ」を目標にしないことも重要な前提です。

公開 2026-08-25 / 更新 2026-08-25

答え(要約)

まず「離職意図」を見てください。メタ分析では、職務満足やコミットメントといった態度が実際の離職に至る経路を、離職意図がほぼ完全に媒介すると報告されています。しかも離職意図に対しては、組織コミットメントより職務満足のほうが強く効きます。したがって着手点は、日々の仕事の内容と上司の支援であり、退職者へのカウンターオファーではありません。

結論

最初に手をつけるべきは「離職意図」です。 実際に辞めた人の数は、施策を打つには遅すぎる指標です。メタ分析の知見によれば、職務満足や組織コミットメントといった態度が実際の離職につながる経路は、離職意図(辞めようという意思)によってほぼ完全に媒介されると報告されています(Tett & Meyer, 1993)。つまり離職意図は、態度と行動をつなぐ結節点にあたります。しかも離職意図に対しては、組織コミットメントよりも職務満足のほうが強く効くとされます。組織への愛着を高めるキャンペーンより、目の前の仕事と上司との関係を整えるほうが、順序としては先だということです。

なぜそう言えるのか

Tett & Meyer (1993) は155研究をもとにパス解析を行い、上記の媒介関係を示しました。ここから導かれる実務上の含意は明快です。第一に、測るべきは離職率ではなく離職意図であること。第二に、離職意図を動かしたいなら、職務満足に効く要因(仕事の内容、裁量、評価の納得感、人間関係)を優先することです。

上司の役割については、Kurtessis et al. (2017) が知覚された組織的支援(POS=会社が自分を大切にしてくれているという認識)のメタ分析を行い、上司からの支援がPOS形成の主要なルートであることを示しています。従業員は「会社」という抽象的な存在を、目の前の上司の振る舞いを通じて経験します。制度を増やす前に、管理職が支援的に振る舞えているかを確認する意味はここにあります。

離職の先行要因を包括的に更新した Rubenstein et al. (2018) は、自発的離職の予測因を整理したうえで、多くの関係が文脈依存的であると結論づけています。どの業界・職種・組織でも同じ打ち手が効くわけではないため、他社事例をそのまま持ち込むのは危険です。

例外・注意点

「離職率ゼロ」を目標にしてはいけません。 Park & Shaw (2013) は300の相関・N = 309,245 を統合し、離職率と組織業績の関係が ρ = −.15(自発的離職 −.15、人員削減型 −.17、非自発的離職 −.01)であることを報告しました。関連はマイナス方向ですが、大きな値ではありません。さらに同研究は非線形の可能性にも言及しています。離職率が極端に低い状態が最良とは限らないということです。

もうひとつの注意点は、辞意を示した人への引き止め(カウンターオファー)に資源を集中させることです。離職意図が固まった段階での対処は媒介経路の最終地点への介入であり、上流の職務満足には手が届きません。なお心身の不調が背景にある場合は人事施策の範囲を超えます。産業医や専門の相談窓口につなぐ判断を優先してください。

関連して知っておきたいこと

組織開発全般のレビューを統合した Aust et al. (2023) は、52レビュー・一次研究957本を対象に、バーンアウトへの効果には強い根拠がある一方、定着(リテンション)への効果の根拠は低く不確定であると報告しています。「職場改善をすれば離職が減る」という因果は、思うほど強く実証されていません。定着を最終目標に据えるより、仕事の設計や負荷といった中間の指標を目標にしたほうが、施策と結果を結びつけやすくなります。

今日からできる小さな一歩として、次のサーベイに離職意図の設問を1問だけ加え、部署別に分けて見てください。全社平均では見えない偏りが、最初の着手点を教えてくれます。より詳しくは なぜ社員は辞めるのか を参照してください。

参考文献

  1. Tett, R. P., & Meyer, J. P. (1993). Job Satisfaction, Organizational Commitment, Turnover Intention, and Turnover: Path Analyses Based on Meta-Analytic Findings. Personnel Psychology.
  2. Kurtessis, J. N., Eisenberger, R., Ford, M. T., Buffardi, L. C., Stewart, K. A., & Adis, C. S. (2017). Perceived Organizational Support: A Meta-Analytic Evaluation of Organizational Support Theory. Journal of Management.
  3. Park, T.-Y., & Shaw, J. D. (2013). Turnover Rates and Organizational Performance: A Meta-Analysis. Journal of Applied Psychology.
  4. Rubenstein, A. L., Eberly, M. B., Lee, T. W., & Mitchell, T. R. (2018). Surveying the Forest: A Meta-Analysis, Moderator Investigation, and Future-Oriented Discussion of the Antecedents of Voluntary Employee Turnover. Personnel Psychology.

本ページは上記の文献等をもとに編集部が作成しています。数値や結論の詳細は必ず原典をご確認ください。

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