コンサルティング心理学大全Consulting Psychology Compendium
用語心理学用語大全エビデンス:理論・整理

アプリシエイティブ・インクワイアリー

Appreciative Inquiry (AI)

アプリシエイティブ・インクワイアリー(AI)とは、問題分析ではなく、うまくいっていることを起点に変化をつくる組織開発の手法です。Cooperriderによる成り立ち、4-Dサイクル、この手法単体の効果検証が確認できていない事実、実務での使いどころと誤解を整理します。

公開 2026-08-25 / 更新 2026-08-25

定義

アプリシエイティブ・インクワイアリー(AI)とは、David Cooperrider らが1980年代に提唱した組織開発のアプローチで、問題点の分析から入るのではなく、組織がすでにうまくできていることを起点に対話を組み立て、望ましい未来像を共有して変化をつくろうとする手法です。

定義

アプリシエイティブ・インクワイアリー(Appreciative Inquiry, AI)とは、組織がすでにうまくできていることを起点に対話を組み立て、望ましい未来像を共有することで変化をつくろうとする組織開発のアプローチです。

「アプリシエイティブ」は価値を認めること、「インクワイアリー」は探究することを意味します。名称そのものが手法の核を表しています。すなわち、問題の原因究明から入る従来型の変革とは逆に、成功しているときに何が働いていたのかを問うという方向づけです。

なお略称の AI は人工知能ではありません。文脈が混ざりやすいため、社内で使うときは正式名称を併記することをおすすめします。

どこから来た概念か

1980年代、David Cooperrider と Suresh Srivastva によって提唱されました。組織開発の実践が「欠陥の発見と修正」に傾きすぎているという問題意識が背景にあります。組織を「解決すべき問題の集合」ではなく「発見されるべき可能性の集合」として扱う、という転換です。

実践は一般に 4-Dサイクルとして整理されます。

段階内容
Discovery(発見)うまくいっている経験を掘り起こす
Dream(夢)それが最大限に生きた未来像を描く
Design(設計)その未来を支える仕組み・役割・関係を設計する
Destiny(実現)実行し、学びを次のサイクルに戻す

対話の単位を大きくとる点も特徴で、多部門・多階層を一堂に集める「AIサミット」という形式がよく使われます。

研究では何がわかっているか

正直に書きます。アプリシエイティブ・インクワイアリー単体の効果を示すメタ分析を、本サイトでは確認できていません。 本項目は理論・実務上の整理であり、効果量を提示できる段階にありません。evidence 区分を na としているのはこのためです。

関連して言えることは限られます。Neuman, Edwards, & Raju (1989) は126研究のメタ分析で、組織開発の介入は単一技法より複合的介入のほうが効果が大きいと報告しました。AIを単独のイベントとして置くのではなく、仕事の設計変更や継続的な対話の仕組みと組み合わせるほうが、研究知見と整合します。

また von Thiele Schwarz et al. (2021) のSigtuna原則は、介入が日常業務に埋め込まれること、プログラムロジックが明示されること、反復的に適応されることを求めています。AIサミットを一度開いて終わりにする運用は、この原則から外れます。

「効果が確認されていない」ことは「効果がない」ことを意味しません。ただし「実証された手法です」と説明するのは不正確です。

実務でどう使うか

使いどころが明確な手法です。次の条件に当てはまるとき検討する価値があります。

  • 問題分析を重ねてきたが、犯人探しの空気が強くなり議論が止まっている
  • 部門間の関係が硬直しており、通常の会議では本音が出ない
  • 目指す姿の共有が先に必要で、細かい是正はその後でよい

進め方の最小形は3段です。第一に、具体的な成功体験を語ってもらう(「いちばん手応えがあった場面を教えてください」)。第二に、その場面で何が働いていたのかを裁量・情報・支援・タイミングといった条件に分解する。第三に、その条件を再現する仕組みを設計する。抽象的な標語に着地させないことが成否を分けます。

よくある誤解

誤解1:問題を扱わないので現実逃避になる。
入口を変えるだけで、扱う現実は同じです。ただし、安全やハラスメントにかかわる事案を強みの話に置き換えるのは誤用です。そうした事案は直接扱ってください。

誤解2:前向きな空気をつくれば成果が出る。
空気は成果ではありません。成功条件を仕組みに変換する工程がないと、高揚感だけが残ります。

誤解3:エビデンスのある手法である。
本サイトではこの手法単体のメタ分析を確認できていません。紹介するときは、その点を明示するのが誠実です。

今日からできる小さな一歩:次の1on1で「最近いちばんうまくいった仕事」を尋ね、そのときにあった条件を3つ挙げてもらってください。再現できるものが1つ見つかれば十分です。

よくある質問

問題を扱わない手法なのですか?

扱わない手法ではなく、入口を変える手法です。何がうまくいっているかを起点にすることで、防衛的な反応を避けながら現実の課題に近づこうとします。ただし、ハラスメントや安全にかかわる問題など、直接扱うべき事案を「強みの話」に置き換えるのは不適切です。

効果は実証されていますか?

本サイトの文献一覧では、アプリシエイティブ・インクワイアリー単体の効果を示すメタ分析を確認できていません。理論・実務上の整理として位置づけるのが正確です。組織開発全般では、単一技法より複合的介入が有効という知見があります(Neuman et al., 1989)。

ポジティブに考えるだけの手法ではないのですか?

そう運用されることはありますが、本来は問いの立て方の技術です。「なぜできないのか」ではなく「うまくいったのはどんなときで、そこで何が働いていたのか」を尋ね、再現可能な条件を特定していくのが趣旨です。

参考文献

  1. Neuman, G. A., Edwards, J. E., & Raju, N. S. (1989). Organizational development interventions: A meta-analysis of their effects on satisfaction and other attitudes. Personnel Psychology.
  2. von Thiele Schwarz, U., et al. (2021). Getting everydayness into organizational interventions: The Sigtuna principles. European Journal of Work and Organizational Psychology.
  3. Lowman, R. L. (2016). An Introduction to Consulting Psychology: Working with Individuals, Groups, and Organizations. APA Books.

本ページは上記の文献等をもとに編集部が作成しています。数値や結論の詳細は必ず原典をご確認ください。

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