コンサルティング心理学大全Consulting Psychology Compendium
用語心理学用語大全●エビデンス:限定的

コーチング心理学

Coaching Psychology

コーチング心理学とは、心理学の理論と検証にもとづいてコーチングを設計・実践する応用領域です。コーチング実践の効果はメタ分析で確認されていますが、領域そのものの優位性を示す効果検証は限定的で、理論的枠組みとして扱うのが正確です。

公開 2026-08-25 / 更新 2026-08-25

定義

コーチング心理学とは、心理学の理論と研究知見を土台にコーチングを設計・実践・検証する応用領域です。健康な人の目標達成や幸福の向上を対象とし、心理的不調の治療を扱う臨床領域とは対象が異なります。

定義

コーチング心理学とは、心理学の理論と研究知見を土台に、コーチングを設計・実践・検証する応用領域です。対象は基本的に健康な人であり、目標達成、パフォーマンスの向上、ウェルビーイングの改善を扱います。心理的な不調の治療を目的とする臨床心理学とは、前提も対象も異なります。

どこから来た概念か

コーチングは長らく、実務家の経験則と流派によって発展してきました。効果が語られる一方で検証が伴わない状況に対し、2000年代前後から、心理学の側から体系的な基盤を与えようとする動きが起こります。オーストラリアや英国の大学に専門課程が置かれ、学会や専門誌が整備されました。理論的には、目標設定理論、自己決定理論、社会認知理論といった既存の枠組みが土台として参照されています。コンサルティング心理学の観点からは、個人レベルの介入手法のひとつとして位置づけられます(Lowman, 2016)。

研究では何がわかっているか

まず区別が必要です。コーチングという実践の効果は、複数のメタ分析で確認されています。組織文脈の個人レベルアウトカムで g = 0.43(コーピング)〜0.74(目標志向的自己制御)(Theeboom et al., 2014)、職場コーチングの組織アウトカムで δ = 0.36(Jones et al., 2016)、ランダム化比較試験のみを対象とした37研究・n=2,528 で g = 0.59(de Haan et al., 2023)と報告されています。ただし最後の研究は有意な出版バイアスを検出しており、自己報告による効果が他者観察より大きく出ることも示しました。

一方で、「コーチング心理学に基づくコーチング」が、そうでないコーチングより効果的だと示したメタ分析は、本サイトの検証済み文献の範囲では確認できていません。領域としての優位性は理論的な主張にとどまり、効果検証は限定的だというのが現時点の正確な記述です。この点をあいまいにしたまま「心理学ベースだから効く」と述べるのは、この分野が批判してきた実務家の語り口と同じになってしまいます。

設計に関する知見は使えます。内部コーチのほうが外部コーチより効果量が大きいこと、多面フィードバックの併用が効果量を小さくしたことが報告されています(Jones et al., 2016)。

実務でどう使うか

第一に、目標の設計に理論を使うことです。具体的で挑戦的な目標、コミットメント、進捗フィードバックという条件が整っているかを確認します。第二に、測定を組み込むことです。本人の満足度だけでなく、他者観察による行動変化を併せて取ります。第三に、コーチの選定基準を明文化することです。資格の有無だけでなく、どの理論に基づき何を測るのかを説明できるかを問います。第四に、適用範囲を線引きすることです。不調のケアはコーチングの外側にあります。

よくある誤解

「心理学の資格があれば良いコーチ」ではありません。 臨床の訓練とコーチングの訓練は別物です。

「コーチング心理学は独自の技法体系」ではありません。 多くは既存の心理学理論の応用であり、独自性より検証する姿勢にこそ特徴があります。

効果検証が十分な領域ではありません。 実践の効果は確認されていますが、領域としての優位性を示す証拠は本サイトでは確認できていません。

よくある質問

コーチング心理学と一般のコーチングは何が違いますか?

理論的な裏づけと検証の姿勢です。コーチング心理学は、目標設定理論やフィードバック研究など既存の心理学の知見を土台に手法を組み立て、効果を測定して修正します。実践の効果自体はメタ分析で確認されており、g = 0.43〜0.74(Theeboom et al., 2014)、組織アウトカムで δ = 0.36(Jones et al., 2016)と報告されています。

コーチング心理学という領域そのものに効果の根拠はありますか?

本サイトが確認できた文献の範囲では、「コーチング心理学に基づくコーチング」と「そうでないコーチング」を比較したメタ分析は確認できていません。したがって領域としての優位性は、現時点では理論的な主張であり、効果検証は限定的だと書くのが正確です。

カウンセリングとどう使い分けますか?

対象が異なります。コーチングは基本的に健康な人の目標達成やパフォーマンス向上を扱い、心理的な不調の回復はカウンセリングや医療の領域です。心身の不調が疑われる場合は、産業医や医療機関、専門の相談窓口につなぐ必要があります。

参考文献

  1. Theeboom, T., Beersma, B., & van Vianen, A. E. M. (2014). Does Coaching Work? A Meta-Analysis on the Effects of Coaching on Individual Level Outcomes in an Organizational Context. The Journal of Positive Psychology.
  2. Jones, R. J., Woods, S. A., & Guillaume, Y. R. F. (2016). The Effectiveness of Workplace Coaching: A Meta-Analysis of Learning and Performance Outcomes From Coaching. Journal of Occupational and Organizational Psychology.
  3. de Haan, E., et al. (2023). What Works in Executive Coaching? A Meta-Analysis Based on Randomized Controlled Trials. Academy of Management Learning & Education.
  4. Lowman, R. L. (2016). An Introduction to Consulting Psychology: Working with Individuals, Groups, and Organizations. APA Books.

本ページは上記の文献等をもとに編集部が作成しています。数値や結論の詳細は必ず原典をご確認ください。

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