コンサルティング心理学大全Consulting Psychology Compendium
用語心理学用語大全●エビデンス:中程度

360度フィードバック

Multisource / 360-Degree Feedback

360度フィードバックとは、上司・同僚・部下など複数の立場からの評価を本人に返す仕組みです。メタ分析では改善は概して小さく、コーチングに併用すると効果がむしろ小さくなったと報告され、改善しやすい7条件が整理されています。

公開 2026-08-25 / 更新 2026-08-25

定義

360度フィードバック(多面フィードバック)とは、上司だけでなく部下・同僚・本人など複数の立場から評価を集め、本人に返す仕組みです。多面的な視点によって、自己認識のずれを可視化することを狙います。

定義

360度フィードバック(多面フィードバック)とは、上司からの評価だけでなく、部下・同僚・本人・場合によっては顧客など複数の立場から評価を集め、その結果を本人に返す仕組みです。狙いは、単一の視点では見えない行動の側面を可視化し、自己認識と他者評価のずれに気づいてもらうことにあります。管理職開発の定番施策として広く導入されています。

どこから来た概念か

1980〜90年代のアメリカで普及しました。評価者が上司だけでは偏りが避けられないという問題意識と、リーダーシップ開発における自己認識の重要性への注目が背景にあります。当初は能力開発(development)の目的で設計されましたが、実務では処遇決定(evaluation)に流用されることも増え、この二つの目的の混在が現在も課題として残っています。

研究では何がわかっているか

結論から書くと、改善効果は概して小さいというのが最も正確な要約です。縦断24研究を対象としたメタ分析では、多面フィードバックの後に業績が改善するかを検討し、改善は概して小さく、実務家は大幅な改善を期待すべきでないと明記されています(Smither et al., 2005)。「導入すれば管理職が変わる」という前提は、研究に支持されていません。

同じメタ分析は、それでも改善が起こりやすい7つの条件を整理しています。①変化の必要を示すフィードバックであること、②肯定的なフィードバック志向をもつこと、③変化の必要性を認識していること、④フィードバックに肯定的に反応すること、⑤変化は可能だと信じていること、⑥適切な目標を設定すること、⑦実際に行動すること。並べてみると、フィードバックそのものより、受け取ったあとのプロセスが効いていることが分かります。

さらに反直観的な知見があります。職場コーチングのメタ分析では、コーチングに多面フィードバックを併用すると効果量がむしろ小さくなったと報告されました(Jones et al., 2016)。良さそうな施策の足し算が裏目に出る例です。

背景の理論としては、フィードバック介入理論が参考になります。平均 d = 0.41 の効果がある一方、3分の1超で業績が低下し、注意が自己に向くフィードバックほど有害になりやすいとされています(Kluger & DeNisi, 1996)。360度フィードバックは、複数の他者からの評価という構造上、注意が自己に向きやすい形式でもあります。一方、具体的な改善提案を添える・文書で伝える・頻度を高めるといった条件は効果を強めます(Hysong, 2009)。

実務でどう使うか

第一に、目的を能力開発に限定し、処遇に使わないことです。評価に直結すると、率直な回答も、受け止め方も歪みます。第二に、フィードバック後の設計に投資することです。7条件の多くは事後のプロセスに関するもので、レポートを配って終わりでは効果は期待できません。第三に、具体的な行動レベルの項目にすることです。人格特性を問う項目は、注意を自己に向けやすくなります。第四に、コーチングとの併用を自明視しないことです。

よくある誤解

「導入すれば行動が変わる」ではありません。 改善は概して小さいと報告されています。

「多くの人から集めるほど正確」でもありません。 評価者の観察機会が乏しければ、集めた数だけノイズが増えます。

「良い施策同士を組み合わせれば強くなる」わけでもありません。 コーチングとの併用で効果量が小さくなったという報告があります。

よくある質問

360度フィードバックで行動は変わりますか?

変わることはありますが、変化は小さいのが実態です。縦断24研究のメタ分析では、多面フィードバック後の改善は「概して小さい」と結論され、実務家は大幅な改善を期待すべきでないと明記されています(Smither et al., 2005)。

改善しやすい条件はありますか?

同メタ分析は7つの条件を挙げています。変化の必要を示すフィードバックであること、肯定的なフィードバック志向をもつこと、変化の必要性を認識していること、フィードバックに肯定的に反応すること、変化は可能だと信じていること、適切な目標を設定すること、そして実際に行動すること、です(Smither et al., 2005)。

コーチングと組み合わせれば効果は上がりますか?

むしろ下がったという報告があります。職場コーチングのメタ分析では、コーチングに多面フィードバックを併用すると効果量が小さくなったと示されました(Jones et al., 2016)。良い施策を足せば強くなる、という前提は成り立ちません。

参考文献

  1. Smither, J. W., London, M., & Reilly, R. R. (2005). Does Performance Improve Following Multisource Feedback? A Theoretical Model, Meta-Analysis, and Review of Empirical Findings. Personnel Psychology.
  2. Jones, R. J., Woods, S. A., & Guillaume, Y. R. F. (2016). The Effectiveness of Workplace Coaching: A Meta-Analysis of Learning and Performance Outcomes From Coaching. Journal of Occupational and Organizational Psychology.
  3. Kluger, A. N., & DeNisi, A. (1996). The Effects of Feedback Interventions on Performance: A Historical Review, a Meta-Analysis, and a Preliminary Feedback Intervention Theory. Psychological Bulletin, 119(2), 254-284.
  4. Hysong, S. J. (2009). Meta-Analysis: Audit and Feedback Features Impact Effectiveness on Care Quality. Medical Care.

本ページは上記の文献等をもとに編集部が作成しています。数値や結論の詳細は必ず原典をご確認ください。

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